「できれば、地盤改良はしたくない」
土地の仕入れやプロジェクト計画において、地盤改良のコストは可能な限り避けたい。
それは、家を建てるお客様も、そして私たち地盤のプロフェッショナルも同じ想いです。
こんにちは。横浜で地盤改良工事を手掛けるアカイケ工業です。
「地盤改良の会社が、改良のいらない土地の話?」と不思議に思われるかもしれません。
ですが、私たちは全ての土地に改良が必要だとは考えていません。むしろ、不要な工事は絶対にすべきではない、というのが私たちの信条です。
そこでこの記事では、プロの視点から「地盤改良が必要ない可能性が高い、良好な土地」を見分けるためのヒントを誠実にご紹介します。
と同時に、プロだからこそ知っている「見た目だけではわからない、隠れたリスク」についてもお伝えします。
最後まで読んでいただければ、なぜ地盤調査が「コスト」ではなく「必須の投資」なのか、その本当の理由がお分かりいただけるはずです。
【どんな土地が「強い」のか?教科書的な3つの条件】
まず結論からお伝えすると、「地盤改良が必要ない土地」は確かに存在します。
それは専門的に言えば「良好な支持層が地表近くにあり、均質で、沈下や液状化のリスクが極めて低い地盤」のことです。
具体的には、以下のような条件を持つ土地が、一般的に「強い土地」と言われています。
1.地形的な特徴
「台地」や「丘陵地」と呼ばれる、周辺よりも少し高くなった平坦な土地は、古くから存在し、よく締まっているため地盤が安定していることが多いです。
2.地質的な特徴
砂や小石が混じった「砂礫層」や、火山灰が堆積して固まった「関東ローム層」などは、建物を支える力が強く、良好な地盤とされています。
3.安定性の特徴
何万年という長い時間をかけて自然に圧力がかかり、十分に固まっている(圧密されている)ため、将来的な地盤沈下の可能性が低い土地です。
これらが、いわば教科書的な「良い土地」の条件です。
【プロが実践する!土地選定で使える「5つの簡易チェック術」】
では、より具体的に、土地を選定する際に使える簡易的なチェック方法を5つご紹介します。明日からの実務で、ぜひ参考にしてみてください。
1.「地名」のヒント
土地の地名は、その土地の過去の姿を映していることがあります。
例えば、「渋谷」「谷中」の「谷」、「池袋」の「池」、「鷺沼」の「沼」、「桜田」の「田」のように、水に関係する漢字や低地を連想させる漢字がつく地名は、かつて軟弱地盤だった可能性があります。
逆に、「山王」「高輪」の「山」や「高」、「目黒台」「駿河台」の「台」、「赤坂」「乃木坂」の「坂」などがつく地名は、比較的地盤が強固な高台であったことを示唆しています。
2.「周辺環境」の観察
その土地の周りを少し歩いてみてください。近所にある古いブロック塀や擁壁に、大きなひび割れや、傾きはありませんか?電柱が斜めになっていたり、アスファルトの道路が大きく波打っていたりする場所は、地盤が動いているサインかもしれません。
3.「ハザードマップ」の活用
国土交通省や各自治体のウェブサイトでは、「液状化ハザードマップ」や「洪水ハザードマップ」が公開されています。これらのマップで、検討している土地がどのようなリスク評価を受けているかを確認することは、今や必須のチェック項目です。
4.「土地の履歴」の調査
古地図や昔の航空写真を、図書館や国土地理院のウェブサイトで確認してみるのも非常に有効です。現在では住宅地になっていても、50年前は田んぼや沼地、川だったというケースは少なくありません。そうした土地は、人工的に土を盛って埋め立てられているため、軟弱地盤である可能性が高くなります。
5.「古くからの神社仏閣」の存在
昔からその地域にある神社やお寺は、地盤が安定した良い場所に建てられていることが多い、という経験則があります。昔の人は、地震や水害の歴史から、どこが安全な場所なのかをよく知っていたからです。近所に古くから鎮座する神社仏閣があるかどうかも、一つの参考になります。
【最重要】なぜ、上記のチェックだけでは“絶対”にダメなのか?
さて、ここまで読んで「なるほど、これだけチェックすれば大丈夫そうだな」と思われたかもしれません。
ですが、ここからが最も重要なポイントです。
なぜ、私たちプロは、これらのチェックを踏まえた上で、必ず「地盤調査」を行うのでしょうか。
それは、見た目や簡単な情報だけでは決してわからない、「隠れたリスク」が存在するからです。
1.隠れた「軟弱層」のリスク
地盤は、どこもかしこも均一なわけではありません。まるでミルフィーユのように、固い層と柔らかい層が交互に重なっていることがよくあります。地表の浅い部分は固く締まっていても、そのわずか数メートル下に、建物の重さに耐えられない軟弱な層が隠れているケースは、決して珍しくないのです。この隠れた軟弱層は、地表から棒状の器具(ロッド)を突き刺して地盤の固さを測る「地盤調査」でしか発見することができません。
2.「造成地」の落とし穴
見た目は平坦で綺麗な住宅地でも、その土地がどのように作られたか、ご存知でしょうか。丘陵地などを開発する場合、山を削った部分「切土(きりど)」と、その土で谷を埋めた部分「盛土(もりど)」が混在する造成地が出来上がります。
切土部分は元の固い地盤なので問題ありませんが、問題は盛土部分です。盛られた土は、十分に締め固める「転圧」という作業が不十分だと、年月をかけてゆっくりと沈み込んでいきます。同じ敷地内で切土と盛土がまたがっている場合、建物の片方だけが沈む「不同沈下」という最悪の事態を引き起こすのです。この切土と盛土の境目は、外から見ただけでは絶対にわかりません。
3.「法律と資産価値」というビジネスリスク
万が一、地盤調査をせずに家を建て、不同沈下などの事故が起きてしまった場合を想像してみてください。品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)により、事業者は買主に対して重い責任を負うことになります。補修には莫大なコストがかかり、会社の信頼は失墜します。それは、プロジェクトに関わる全てのプロフェッショナルにとって、計り知れないビジネスリスクです。適切な地盤調査と、必要に応じた対策を行うことは、事業の評判と、お客様の大切な資産価値を守ることに直結するのです。
【まとめ】地盤調査は「コスト」にあらず。未来の安心を守る「投資」です。
この記事でお伝えしたかった、たった一つのこと。
それは、簡易的なチェックで良い土地の「あたり」をつけることは可能ですが、最終的な安全性を科学的に「保証」する手段は、専門家による地盤調査でしか得られない、ということです。
私たちの使命は、不要な地盤改良工事を売ることではありません。
正確な地盤データという客観的な事実に基づいて、お客様のプロジェクトに潜むリスクを限りなくゼロに近づけ、事業者様と、その先にいるエンドユーザー様に、本当の意味での「安心」を提供することです。
土地の選定やプロジェクトの初期段階で、少しでも地盤に関する不安や疑問があれば、どうかお気軽にご相談ください。
それは未来への、最も賢明な投資になるはずです。